世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
「歯ぐきがたびたび腫れる」「過去に神経を取った歯なのに違和感が続く」——
そんなお悩みでご来院された患者さんの症例をご紹介します。
検査の結果、根の先端(根尖部)と根が分かれている部分(分岐部)に広がる黒い影が見つかりました。レントゲンだけでは分かりづらいこうした病変も、CTを使った精密な診断により、その原因を明らかにすることができます。
一見すると「穿孔(根に穴があいている状態)」にも見えるこの影。
しかし、詳しく調べると——実はまったく別の理由が隠れていました。
過去に受けた根管治療では届かなかった感染源を丁寧に取り除き、再根管治療を行った結果、半年後には黒い影も改善。
本記事では、CTで分かった“本当の原因”と治療の流れ、そして改善までの経過をわかりやすくご紹介します。
初診時の状態: 繰り返す腫れと黒い影
経緯
約3年前に神経を取る治療(抜髄)を受けた右下6番(第一大臼歯)について、最近になって、歯ぐきが腫れてウミが出ることがあったり、噛んだときに痛みを感じることがあったりするとのことで、当院にご相談いただきました。症状は一時的に治まっても繰り返すため、「原因がはっきり分からず不安」とのお気持ちもあったようです。
主訴・所見:CT診断で分かった意外な原因とは
- 瘻孔(ウミの出口となる小さな穴):あり(頬側歯頚部に痕が残っている状態)
▲初診時の口腔内写真(黄色の丸で示す部分:銀歯の下のむし歯・青色の丸で示す部分:瘻孔の痕)
▲初診時のレントゲン・CT画像
検査の結果、以下のような所見が確認されました。
- 歯の周囲に広い範囲で黒い影(骨のない部分)が見られた
→ 手前の根の先・根が分かれている部分・奥側の根の先にかけて影が広がっていました。 - 歯と歯ぐきの境目(歯頚部)に瘻孔の痕が見られた
→ 根管内部や側枝と呼ばれる細かい分岐部分の清掃が不十分だったことにより、感染が起き、ウミが出ていた痕跡と考えられます。 - 手前の根(近心根)の根管は2本とも強く湾曲しており、根の先付近で1本に合流していた(図2・赤い線)
→ このような複雑な根管形態では、器具や薬液が届きにくく、感染が残ってしまうことがあります。 - 根が分かれている部分の近くには、「側枝」と呼ばれる細い枝状の根管が確認された(図2・青色の丸)
- 歯には銀歯が装着されていたが、歯との境目に段差があり、適合が不十分だった
→ 銀歯の下にむし歯(う蝕)ができていました。
側枝とは?
歯の根の中には、主となる太い根管とは別に、細く枝分かれしたような通り道が存在することがあり、これを「側枝」と呼びます。非常に細く入り組んだ構造のため、通常のレントゲンでは見つけにくく、従来の治療では感染源として見落とされやすい部位でもあります。
これらの所見から、歯の内部や根の分岐部、側枝にまで細菌が入り込み、炎症を繰り返した結果、瘻孔の形成や骨の吸収が起こったと考えられました。
治療の経過:精密な再根管治療の流れ
治療1回目
瘻孔:あり(頬側に痕がある)
- 麻酔を行ったうえでラバーダム(ゴム製のシート)を装着
- 銀歯と土台(コア)を丁寧に除去
- 残っていたむし歯もきれいに除去
- 過去の根管充填材(ガッタパーチャ)を慎重に取り除く
- レントゲンを撮影し、充填材がほぼすべて除去されていることを確認
- 治療後は、壁(隔壁)を作製し、レジンで仮封
▲治療中のレントゲン画像(根の中の古い充填材が取れているか確認)
治療2回目
瘻孔:なし
- 痛みはなく、瘻孔も消失していた
- ラバーダムを装着し、全ての根管を丁寧に洗浄
- 根管充填を実施
- レントゲンで根の先端まで適切に充填されていることを確認
- 一部に、側枝まで充填材が到達した可能性を示唆する像も認められた(根管充填直後のレントゲン画像・赤色の丸)
▲初診時と治療2回目開始前の口腔内写真
▲根管充填直後のレントゲン画像(根管充填は良好に行えました)
治療3回目
瘻孔:なし
- 症状の再発はなかった
- ポスト(支柱)とコア(土台)を作製、歯の形を整えた
- 仮歯を作製して仮着
- 再根管治療としての処置は完了、以後は経過観察へ移行
▲初診時と治療中、仮歯装着後の口腔内写真
経過観察:治療後の経過と画像で見る改善
根管充填後は、画像と症状の両面から経過を確認していきました。
▲レントゲンでの経過
(術前、根管充填直後、根管充填後3カ月、根管充填後半年)
▲CT画像での経過(術前、根管充填後半年)
根管充填から3か月後
痛み・腫れ・瘻孔などの症状はまったく見られず、食事にも問題はないとのことでした。レントゲンでも明らかな変化は見られませんでしたが、良好に経過していると判断し、次回は6か月後にCTも含めた再評価を行うこととしました。
根管充填から6か月後
症状はまったくなく、安定していました。レントゲンとCTを撮影したところ、根尖部および分岐部にあった黒い影(骨のない部分)が明らかに縮小しており、骨の回復傾向が確認できました。この結果を踏まえ、経過は良好と判断し、仮歯から最終補綴物への移行を患者さんと相談していく段階に進みました。
まとめ:歯ぐきの腫れや違和感が続く方へ
「もう神経は取っているから大丈夫」と思っていた歯でも、時間が経ってから再び腫れたり、違和感が出たりすることがあります。
特に、レントゲンだけでは見えにくい分岐部や側枝の病変が隠れている場合、CTによる精密な診断が欠かせません。
今回のように、穿孔と見間違えそうな分岐部の影が実は側枝によるものであったケースでは、正確な診断と丁寧な再根管治療によって歯を残すことができます。
以前に治療した歯で気になる症状が続いている方は、どうかそのまま放置せず、お早めにご相談ください。
当院ではCT診断やマイクロスコープを活用した精密な根管治療を、すべて自由診療にて行っています。
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