世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
歯ぐきの腫れが半年以上続いてしまい、なかなか治らない…。
そんな状態が続くと「大丈夫だろうか」と不安になりますよね。
今回ご紹介するのは、痛みはなかったものの、歯ぐきにウミの出口(瘻孔)が消えず、20年前に入れた差し歯の下でトラブルが起きていた患者さんの症例です
初診時の状態: 半年以上治らない歯ぐきの腫れ
経緯・主訴
患者さんは「痛みはないものの、歯ぐきの腫れが半年以上も続いている」とのことで来院されました。
右上小臼歯あたりの歯ぐきにウミの出口(瘻孔)ができており、近医では「8本の差し歯をすべて外さなければならない」と説明を受けたそうです。
実際には、半年前から瘻孔が続いており、同院でレーザーを当てても改善がみられませんでした。差し歯は20年ほど前に装着したもので、長期間使ってきたことも不安の一因でした。
患者さんご自身は痛みを感じてはいませんでしたが、「痛い治療が苦手」というお気持ちもあり、腫れが治らない状況に強い不安を抱えて当院を受診されました。
所見: 瘻孔の原因を探るための診査結果
▲初診時の口腔内写真(青丸で示す部分:右上小臼歯の歯ぐきに瘻孔を認める)
●口腔内診査
自発痛はなく、打診痛や圧痛も認められませんでした。しかし右上小臼歯の頬側に瘻孔が確認されました。歯周ポケットは3mmと比較的浅く、歯周病による問題ではないことが分かります。また、右上5・4・3には連結した被せ物(クラウン)が装着されていました。
●レントゲン・CT画像所見
画像検査では、右上4番(第一小臼歯)の根尖から口蓋側に広がる黒い影(骨のない部分)が確認されました。また、差し歯の支えとなるポストの先端に空隙が疑われ、側枝への感染、あるいは歯根破折の可能性も示唆されました。
これらの所見から、瘻孔の原因となっていると考えられる治療部位は右上4番(第一小臼歯)であり、まずはこの歯の根管治療を行っていくことになりました。
連結している被せ物については、右上5-4間、4-3間を切断し、右上4のみを除去して仮歯に置き換えたうえで治療を行う方針としました。その際、隣接する歯の被せ物も一緒に脱離してしまう可能性があることを説明し、同意を得たうえで治療を進めていくことになりました。
側枝とは?
歯の根の中には、主となる太い根管とは別に、細く枝分かれしたような通り道が存在することがあり、これを「側枝」と呼びます。非常に細く入り組んだ構造のため、通常のレントゲンでは見つけにくく、従来の治療では感染源として見落とされやすい部位でもあります。
治療の経過
治療1回目
- 初診時と同様に痛みはなく、頬側のウミの出口は残存。歯周ポケットは3mmで特に変化なし。
- 麻酔を行い、右上5-4-3の連結冠を切断し、右上4のみを除去する予定だったが、処置中に右上5の被せ物も一緒に脱離。右上5についても今後根管治療をしていくこととしました。
- ラバーダム(ゴム製のシート)を装着し、清潔で安全な環境を確保してからメタルポストを除去しました。これにより、削ったカスがのどに流れたり、粘膜を傷つけたりすることを防ぎました。
- むし歯の取り残しがないように注意深く除去し、可能な限り健康な歯質を残すように処置しました。
- 隔壁(唾液が入り込まないようにし、歯の補強も兼ねた人工的な壁)を作製しました。
- 右上5-4に連結した仮歯を作製し、仮着しました。
治療2回目
- 痛みはなく、頬側の瘻孔は残存。歯周ポケットは3mmで変化なし。
- 根管充填を行っても瘻孔が改善しない場合は、歯根端切除術(外科的処置)が必要になる可能性について説明しました。
- 麻酔を行い、仮歯を外してラバーダムを装着しました。
- 根管内を十分に洗浄したのち、根管充填を行いました。
- 歯冠部を仮封し、仮歯を再度装着してこの日の処置を終了しました。
根の先端までしっかりと薬剤が行き届いていることが確認できます。角度を変えて撮影することで、すべての根管に充填材が適切に入っていることを確認しました。
今回の右上4の根管は、根尖部で合流する形態をしており、さらに側枝も認められました。これらが原因となり、根管の側面に黒い影(骨のない部分)が生じていたと考えられます。根管充填によってその部分まで薬剤が行き届いたことで、感染源をしっかりと封鎖できたといえます。
治療3回目
- 痛みはなく、頬側の瘻孔は消失。赤みのある小さな痕が残っているのみ。歯周ポケットは3mmで安定。
- 麻酔を行い、仮歯を外してラバーダムを装着しました。
- 根管治療を終えた右上4に対して、ポスト(支柱)とコア(土台)を作製しました。
- 仮歯の形を修正し、再度仮着しました。
- 今後は右上5も含めて他の歯の治療を進め、経過を確認しながら最終的に被せ物を作製していく予定です。
治療前には歯ぐきに瘻孔が見られましたが、治療後には腫れやウミの出口は改善し、現在は赤みのある小さな痕が残る程度になっています。仮歯を装着することで、見た目や噛む機能も一時的に回復した状態になっています。
経過観察
根管充填後は、画像と症状の両面から経過を確認していきました。 中心位置が異なるため、緑の矢印で今回の症例の主訴となる歯を示しています。
▲レントゲンでの経過 (術前、根管充填直後、根管充填後2カ月、根管充填後1年)
根管充填から2か月後(右上5根管充填時の状態)
- 痛みはなく、右上4の瘻孔は消失。赤みのある痕が残っているのみで、新たな腫れは認められませんでした。
- 歯周ポケットも3mmで安定しており、治療後の経過は順調でした。
- さらに、右上5の根管充填時に撮影したレントゲンでも、右上4の根の黒い影が広がっている様子はなく、引き続き安定した経過を示していました。
- 今後の対応:
→ 根管治療が必要な歯を検査・治療していく
→ すべての処置が終わった段階で改めてレントゲンやCTで経過を確認する
→ そのうえで最終的な被せ物を作製していく予定です
根管充填から1年後
- レントゲンとCTを撮影し、右上4を含めた複数歯の経過を確認しました。
- 治療前に見られた根尖から口蓋側へ広がる黒い影は改善傾向を示していました。
- 根尖部では分岐や側枝が明瞭に確認され、根管充填材が根の先端までしっかりと行き届いていました。これにより、長期的にも安定した経過が得られていることが確認できました。
- 今後の対応:
→ 治療を行った右上4を含め、他の歯も経過は良好であったため、まとめて最終的な被せ物を作製していくこととなりました。
→ 治療後の歯を長持ちさせるため、かかりつけの歯科医院で定期的な検診やクリーニングを受けていただきます。
→ さらに、必要に応じて当院でも経過を確認し、状態が安定しているかをチェックしていく予定です。
まとめ: 長く続く症状の原因は、CTで確認できることがあります
歯ぐきの腫れや痛み、違和感といった症状が長く続くと、「このままで大丈夫なのだろうか」と不安に感じる方も少なくありません。
レントゲンだけでは原因が分かりにくい場合でも、CTを用いることで歯の根の状態や骨の変化を立体的に把握でき、隠れた原因を確認できることがあります。
今回の症例でも、CTによって原因を正確に特定し、丁寧な根管治療を行うことで、症状の改善と歯の保存につなげることができました。
長く続く症状をそのままにしてしまうと、抜歯に至るリスクが高まることもあります。
気になる症状がある場合は、早めに検査・治療を受けていただくことをおすすめします。
当院ではCT診断やマイクロスコープを活用した精密な根管治療を、すべて自由診療にて行っています。
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