世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
歯ぐきが腫れたり、白いできものができたりすると、
「どの歯が悪いんだろう…」と不安になりますよね。
しかし、腫れている場所と、実際に原因となっている歯が一致しないことがあります。
見えている症状だけでは、原因がわかりにくいケースも少なくありません。
今回の症例では、腫れは手前の歯ぐきに見られましたが、
原因はその奥の歯の根の感染にありました。
奥の歯の根管治療を進めながら、手前の歯の状態も慎重に経過を診ていく必要があり、
どの歯を治療するべきかを見極める診査と、治療中の経過観察が重要となった症例です。
初診時の状態
経緯・主訴
約9か月前に右上奥歯に強い痛みがあり、近医を受診しましたが、
はっきりとした原因は分からないと言われたそうです。
その後、強い痛みはおさまったものの、なんとなく違和感が続いている状態でした。
「痛みはないけれど、どの歯が悪いのか分からないまま過ごすことが不安」
というお気持ちがあり、原因をしっかり確認したいとのことで、当院を受診されました。
所見

▲初診時の口腔内写真
(青丸で示す部分:右上6番の歯の内側の歯ぐきに瘻孔(ウミの出口)を認める)
●口腔内診査
右上6番の歯の内側(上あご側)の歯ぐきに、瘻孔(ウミの出口)が認められました。
右上6番・7番ともに、強い痛みや噛んだときの痛みはありませんでした。
口腔内の状態だけでは、どちらの歯が原因になっているかは判断が難しい状況でした。
●レントゲン・CT画像所見
レントゲンでは、**右上6番と7番のどちらにも根の先に透過像(黒い影)**が見られました。
この段階では、どちらの歯が原因となっているのかは判断が難しい状況でした。
しかし、CT画像で詳細に確認すると、右上7番の根の先にある透過像(黒い影)がより明瞭で、炎症が右上6番の方向へ広がっているように見えました。
また、右上7番は根の形が緩やかに曲がった(湾曲した)形態をしており、根の通り道がまっすぐではないことも確認されました。
これらの所見から、瘻孔の原因は右上7番の根の感染による可能性が高いと考え、
まずは右上7番から根管治療を開始しながら、右上6番については経過を診て判断していく方針としました。
原因の歯を見極めるポイント
歯ぐきに腫れや白いできもの(瘻孔)があると、その歯が原因だと思いやすいものです。
ですが、実際には、腫れている場所と原因の歯が一致しないことがあります。
歯の根の先に感染や炎症があると、その影響が骨の中を通って広がり、ウミが出やすい場所から外へ出てきます。
その結果、ウミの出口(瘻孔)が、原因となっている歯とは別の歯の近くに現れることがあります。
今回の症例では、腫れは右上6番の歯ぐきに見られましたが、CTで確認すると、透過像(黒い影)がはっきりとしていたのは右上7番の根の先でした。
つまり、腫れている場所だけでは原因を判断できないことがあるということです。
そのため当院では、
- お口の中の診査
- 痛みや違和感の有無
- レントゲン
- CT画像での確認
を組み合わせて、どの歯が本当に治療を必要としているのか慎重に見極めています。
治療の経過
治療1回目
- 痛みはないものの、噛んだときに違和感があるとのこと。
- 治療を開始する前に、右上7番と右上6番の神経が生きているかどうかの反応検査を行った。右上7番は反応が見られず、神経が機能していない可能性が高いと判断した。右上6番はわずかに反応があり、神経は残っている可能性があるため、判断は保留とした。
- 右上6番の歯ぐきに瘻孔が見られたが、画像所見より、原因は右上7番の根の感染が疑われたため、右上7番から治療を開始した。
- 麻酔を行い、古い修復物(コンポジットレジン)を除去したうえで、ラバーダムを装着して根管内を確認した。
- 根管の入口(上部)の清掃・拡大を行い、仮封にて終了した。
- 右上6番については、経過を観察しながら治療の必要性を判断していく方針とした。
治療2回目
- 前回の治療のあと、当日は少し痛みがあったものの、その後は落ち着いたとのこと。
- 自発痛や腫れはなく、右上6番の瘻孔は引き続き認められた。
- 麻酔を行い、ラバーダムを装着して右上7番の根管治療を継続した。
- 根の中を確認したところ、主となる根の通り道に加えて、さらに細い通り道がある可能性が考えられたため、必要な範囲で清掃を行った。
- 各根の先まで器具が届いていることを確認し、根管内を洗浄したうえで仮封にて終了した。
- 次回、根の通り道(特に細い通路)の形態を再確認し、根管充填に進む予定とした。
治療3回目
- 前回の治療後、腫れているような感じが1週間ほど続き、歯ブラシを当てると痛みがあったとのこと。現在は落ち着いている。
- 診査にて、右上6番の歯ぐきに見られていたウミの出口(瘻孔)は消失していることを確認した。
- 右上6番は神経の反応が確認できたため、治療は行わず経過観察とした。
- 麻酔を行い、ラバーダムを装着して右上7番の根管治療を継続した。
- 根の中を確認したところ、細い通り道は根の先で主の根と一つに合流する形の可能性があると考えられたため、その部位を含めて洗浄と清掃を行った。
- また、根の形が緩やかに曲がっている(湾曲している)形態であったため、根の形状に合わせて慎重に処置を進めた。
- 仮封にて終了し、次回、根管充填に進む予定とした。

▲治療開始前と治療3日目の口腔内写真
右上6番の歯ぐきに見られた瘻孔(ウミの出口)は、治療の経過により無くなりました。
治療4回目
- 前回の治療後、ジンジンとした痛みがあったが、2〜3日で落ち着いたとのこと。
- 自発痛や腫れはなく、触診および打診でも痛みは認められなかった。
- 麻酔を行い、ラバーダムを装着して、右上7番の根管内の最終洗浄を行った。
- 根管内の状態を確認し、根管充填を行った。
- 引き続いて、ポスト(支柱)とコア(土台)を作製し、歯冠部の形態を回復した。
- レントゲンにて、根管充填および土台の適合状態が良好であることを確認した。
- 3か月後に経過を再評価する方針とした。

▲根管充填直後のレントゲン画像
根の形が曲がっている部分まで、しっかりと材料が充填されています。
経過観察
根管充填後は、画像と症状の両面から経過を確認していきました。
根管充填後3か月
- 痛みや腫れなどの症状は落ち着いており、右上6番に見られていた瘻孔(ウミの出口)の再発も認められなかった。
- レントゲンでは、右上7番の根の先に見られていた透過像(黒い影)に大きな変化はなかったが、レントゲンでの変化は時間を要するため、現段階では問題ないといえる。
- 引き続き、経過を観察していく方針とした。
根管充填後6か月
- 自覚症状はなく、噛んだときの痛みや歯ぐきの腫れもみられなかった。
- レントゲン、CT撮影にて、根の先の透過像(黒い影)が小さくなり、改善していることを確認した。
- 回復が進んでいることから、患者さんが希望されていた矯正治療へ進められる状態であると判断した。
根管充填後 約3年
- 「たまに歯ぐきが腫れている気がする」とのことで来院。
- 診査およびレントゲンでは、炎症や再感染を示す所見は認められず、経過は良好と判断した。
- 一度根の先に炎症があった歯は、周囲の組織が回復していく過程で違和感がでることがあるため、今後も必要に応じて経過を確認していく方針とした。
まとめ
今回のケースでは、右上6番の歯ぐきに腫れが見られましたが、
CT検査の結果、炎症の原因は奥にある右上7番の歯にあることがわかりました。
腫れている場所だけを見て治療していた場合、
右上6番の神経を取ったり、根管治療を行っていた可能性があります。
しかし、その場合は原因となっている右上7番が治療されないため、腫れは改善しなかったでしょう。
当院では、症状だけで判断することはせず、お口の中の診査、レントゲン、CT画像などを組み合わせて、本当に治療が必要な歯を見極めることを大切にしています。
今回は、原因となっていた右上7番の根管治療を行うことで、右上6番の神経を残すことができました。
「必要な歯に、必要な治療を。それ以外の歯は、できるだけそのままに。」
不要な治療を避けることは、歯を長く保つことにつながります。
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