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お知らせ

カテゴリ: むし歯治療

【むし歯治療したはずの歯に起きていたこと】痛みもない奥歯の診断結果

世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。

「昔むし歯治療をしたから、この歯はもう大丈夫」
そう思っている方は多いかもしれません。

今回の患者さんも、以前に治療した奥歯について「特に痛みもないし、違和感もない」とおっしゃっていました。

しかし、実際に口腔内を確認すると、詰め物の境目に汚れがたまりやすく、歯ぐきには歯周ポケットも確認されました。
念のためCTを撮影したところ、レントゲンでは映っていなかった骨の欠損や、上顎洞への影響まで明らかになったのです。

痛みがなくても、過去に治療した歯の内部で病変が静かに進行していることがあります。
ではなぜ、「しっかり虫歯を治療したはずの歯」が、根の治療が必要なほど悪化してしまうことがあるのでしょうか?
本文では、その理由と背景をくわしくご紹介します。


初診時の状態: 痛みのない奥歯に広がる影

経緯・主訴

当院では、右上3番・4番・5番の根管治療をすでに行っていた患者さんです。
今回あらたに主訴となったのは、右上7番(第二大臼歯)。この歯は過去にむし歯治療を受けており、CR(コンポジットレジン=歯科用プラスチック)による詰め物が施されていました。

患者さんは「噛んでも痛くないし、特に違和感もない」とおっしゃっており、外見上も大きな問題はなさそうに見えたため、当初はこの歯について、CR下のむし歯を除去したうえで、神経を残す修復処置を行う予定でした。

しかし、詰め物の適合状態や清掃性にやや不安があったため、慎重に確認する必要があると判断し、詳細な診査を進めることとなりました。

所見:診査所見とCT画像から分かった骨の欠損

治療開始前の奥歯の状態を示す2枚の口腔内写真。左は咬合面から、右は頬側からの撮影で、むし歯や詰め物の段差がある歯を青丸で強調。
▲初診時の口腔内写真(青丸で示す部分:主訴の歯・詰め物下が黒くなっている)

右上7番のレントゲン画像。右の画像では、赤丸で示された部位に詰め物の段差とむし歯の再発が見られる(図1)。 右上7番の初診時のCT画像。右の画像では、赤線で根管の湾曲と合流を示し、黄色の丸は上顎洞粘膜の肥厚を示している(図2)。
▲初診時のレントゲン・CT画像

● 口腔内診査

歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)を調べてみると、歯の奥側の部分を中心に、3〜5mmとやや深くなっている場所がありました。
このようにポケットが深くなっている場合、歯ぐきの内側で炎症や骨の吸収が進んでいる可能性があります。

また、歯に詰めてあったプラスチック(コンポジットレジン)の適合もあまり良くなく、詰め物の境目に汚れがたまりやすい状態になっていました。
詰め物が歯ぐきの下まで入り込んでいたため、歯ブラシではしっかりと汚れが落とせず、虫歯や歯周病が進行しやすい環境になっていたと考えられます。

歯周ポケットとは?

歯と歯ぐきの間にできる溝のことで、通常は1〜2mm程度が正常範囲とされています。
しかし、炎症や汚れの蓄積などにより深くなってしまうと、細菌が内部に侵入しやすくなり、歯周病や歯の根の病変につながるリスクが高まります。
今回のようにポケットが3〜5mmと深くなっている場合は、病変が進行している可能性があり、精密な検査や治療が必要となります。

● レントゲン・CT画像所見

レントゲンでは、はっきりとした異常は確認できませんでした。
これは、奥歯の周囲はあごの骨が厚く、病変が映りにくいためです。特に根の先にあるような小さな変化や、周囲の骨の状態などは、レントゲン画像だけでは見逃されてしまうことがあります。

しかし、CT検査を行ったことで、はじめて病変の存在が明らかになりました。
歯の根の先から手前の根にかけて、広範囲に黒い影(骨が失われている部分)が見つかり、これは根の周囲で炎症や感染が進んでいることを示しています。

また、歯のすぐ上にある上顎洞(副鼻腔)の粘膜も厚くなっており、歯の病気が上顎洞にまで広がっている可能性が考えられました。

さらに、この歯の根は少し複雑な形をしており、複数の根管が途中でつながり、根の先で1本になるタイプであることも分かりました。
こうした根の構造は、病変が広がりやすく、レントゲンだけでは診断が難しいケースです。

今回のように、レントゲンでは見逃されがちな変化も、CTを活用することで正確に把握することができました。

これらの所見から、歯の神経はすでに死んでいる(失活)と判断し、治療方針を神経を残す処置から”歯の神経を抜く=根管治療”へと切り替えることになりました。

複数の根管が1つに合流する歯の注意点

1.感染が広がりやすい
複数の根が途中でつながり、根の先で1本になるタイプの歯では、どれか1つの根で感染が起こると、ほかの根にも一気に広がってしまうおそれがあるのです。

2.病変が進行するまで気づきにくい
根の形が複雑な歯は、レントゲンでは異常が見えにくく、症状が出にくいまま進行することがあります。実際、今回のケースでもCTを撮ってはじめて、歯の根の先の大きな骨の欠損が見つかりました。

3.治療が難しいことがある
根の中が合流している場合、根管の清掃・消毒が難しくなることがあります。特に、合流部がカーブしていたり狭かったりすると、器具が届かず、感染が取り切れないリスクもあるため注意が必要です。

4.治るまでに時間がかかることがある
複雑な根の構造では、治療に加えて、病変が治るまでの時間も長くかかることがあります。
CTなどでしっかり確認しながら、数ヶ月〜半年単位での経過観察を行うことが大切です。


治療の経過:CTで把握した形態をもとに根管治療を実施

治療1回目

  • 治療に先立ち、前述のCT撮影を行い、レントゲンでは確認できなかった骨の欠損や根の形態を把握しました
  • 麻酔を行ったうえで、ラバーダム(ゴム製のシート)を装着しました
  • 可能な限り健康な歯質を残すため、マイクロスコープで確認しながらCR(コンポジットレジン)を慎重に除去しました
  • むし歯も丁寧に除去し、黒く見えていても軟らかくなっていない部位については着色と判断し、削りすぎないよう配慮しました
  • 歯に隔壁(唾液が入り込まないようにし、歯の補強も兼ねた人工的な壁)を作製しました
  • 最後に仮封を行い、次回から本格的な根管治療に入る準備が整いました

治療2回目

  • 自覚症状はなく、痛みの訴えはありませんでしたが、歯周ポケットは深いままでした
  • 麻酔を行ったうえで、ラバーダムを装着しました
  • 4本ある根管すべてを根の先端まで丁寧に清掃(根管治療)しました
  • CT画像で予測していた通り、4本の根管が根の先端で1つに合流する形態を確認しました
  • 根管内に薬剤(根管治療中に根の中に一時的に入れる薬)を入れ、仮封を行いました

治療3回目

  • 痛みや違和感などの症状は引き続きなく、歯周ポケットも前回と同様の深さ(約3mm)でした
  • 麻酔を行い、ラバーダムを装着しました
  • 根管内部の状態を再確認し、最終的な洗浄を行いました
  • 4本すべての根管に根管充填(薬剤で密封する処置)を行いました
  • そのままポスト(支柱)とコア(土台)を築造しました
  • レントゲンを撮影し、根の先端までしっかりと充填されていることを確認しました

右上7番の根管充填直後のレントゲン画像2枚。撮影角度を変えることで、4本すべての根管に充填材が行き届いている様子が確認できる。
▲根管充填直後のレントゲン画像
レントゲン写真を2方向から撮影し、角度を変えることで、重なって映りやすい根管も含め4本すべての根管にしっかりと充填材が行き届いていることを確認しました。

治療4回目

  • 引き続き、痛みや違和感の訴えはありませんでした
  • 歯周ポケットは前回同様、約3mmの状態を維持していました
  • 土台の形を整え、仮歯を作製し仮着しました

 今後の経過を慎重に観察していく方針としました

治療前と治療終了後(仮歯装着時)の口腔内写真。治療部位には仮歯が装着され、形態と機能が回復している様子が確認できる。
▲治療開始前と治療終了後(仮歯)の口腔内写真


経過観察

根管充填後は、画像と症状の両面から経過を確認していきました。

右上7番の術前・根管充填直後・3カ月・半年後までの経過を示すレントゲン画像。根尖部の骨の治癒過程と経過の安定が確認できる。
▲レントゲンでの経過
(術前、根管充填直後、根管充填後3カ月、根管充填後半年)

治療前と根管充填後6カ月のCT比較画像。治療前には根尖部に骨欠損が認められたが、6カ月後の画像では骨の再生が確認でき、経過は良好。
▲CT画像での経過(術前、根管充填後半年)

根管充填から3か月後

  • 痛みや違和感などの自覚症状はなし
  • この期間中にかかりつけ医にて2回のクリーニングを実施
  • 歯周ポケットの状態:遠心部で4mmの深さを認める
  • レントゲン撮影を実施:骨の状態に明らかな悪化は見られず、経過は良好
  • 今後の対応:
    →6カ月後にCT撮影を行い、より詳細な状態を確認予定
    →歯周ポケットのさらなる改善には、根管治療以外のアプローチが必要と考えられる

根管充填から6か月後

  • 引き続き痛みや違和感の訴えはなし
  • 右側での咀嚼も問題なし
  • レントゲンおよびCT撮影を実施:根尖部の骨欠損は明らかに改善
  • 歯周ポケットの状態:遠心部など一部で骨欠損が残存、根管治療でのこれ以上の改善は困難と判断
  • 今後の対応:
    →歯周病に対する処置をかかりつけ医に依頼
    →最終的な補綴処置もかかりつけ医院で実施予定
    →患者さんにもその旨を説明し、治療の継続を依頼済み

まとめ:痛みがなくても精密検査でわかることがあります

今回の症例では、過去にむし歯治療した歯に症状がなかったにもかかわらず、CT検査によってはじめて根の先の骨の欠損が明らかになりました。
もし**「痛くないから大丈夫」と放置していたら**、感染がさらに進行し、歯を失うリスクが高まっていたかもしれません。
根管治療は見えない部分の治療だからこそ、正確な診断と丁寧な処置が必要です。当院では、マイクロスコープやCTなどの精密機器を活用し、再治療が必要な歯にも可能な限り対応しています。
治療後も、かかりつけ医と連携して経過観察やクリーニングを継続していくことで、良好な状態を維持することができます。
「昔治療した歯だから安心」と思っている方も、気になる点があればお気軽にご相談ください。


次回コラムについて

「治した歯がまた悪くなるなんて…」そんな疑問にお応えするコラムを、次回公開予定です。むし歯の再発について、わかりやすくご紹介します。


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✅関連記事はこちら
👉【治療したはずの歯が痛む】再発した痛みと再根管治療で改善した症例


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最後までお読みいただきありがとうございました。

根管治療専門医による精密根管治療【坂上デンタルオフィス】

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【歯の神経を残せるか不安な方へ】残す治療と抜く判断のポイント

神経を抜くと言われて不安な方へ

「神経を取る必要があります」——歯科医院でこう告げられて、不安になったことはありませんか?

歯の神経(歯髄)は、できる限り残したい大切な組織です。 しかし、症状やむし歯の進行具合によっては、どうしても抜かなければならない場合もあります。

この記事では、

  • 神経を残せるかどうかの判断基準
  • 神経を残す治療のメリット・リスク
  • 抜髄(神経を取る処置)が必要になるケース をわかりやすくご紹介します。

歯の神経とその役割を知る

歯髄が果たす大切な働き

歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管が通っています。 これは、歯に酸素や栄養を届け、健康な状態を保つための大切な組織です。

歯の構造と神経の位置関係(図解)

📍 図:歯の構造と歯髄の働き

歯の断面図。エナメル質・象牙質・歯肉・歯槽骨・歯根膜・歯髄がラベル付きで示されている

  • エナメル質:歯の一番外側にある硬い部分
  • 象牙質:その内側にあり、神経に近い層(エナメル質より軟らかい)
  • 歯髄:神経や血管が集まり、歯に栄養や感覚を与える
  • 歯槽骨:歯を支えるあごの骨
  • 歯根膜:歯根とあごの骨(歯槽骨)をつなぐ靭帯、膜状になっている

この歯髄があることで、歯は“生きている”状態を保ち、外部からの刺激を感知することができます。


神経を残す治療とは?

歯髄保存処置ができるケース

むし歯が深くても、神経まで完全に感染していなければ、**「歯髄保存処置」**という方法で神経を残すことができます。

  • 冷たいものがしみるなどの軽度な症状
  • 自然に痛みがおさまることがある

このような状態であれば、慎重に処置することで神経を温存し、歯の寿命を延ばすことができます。

神経を残すメリット

  1. 感覚の維持:温度や痛みの感覚が残るため、自然な使い心地を維持できます。
  2. 歯の強度保持:歯に栄養が届きやすく、長期的に歯が割れにくくなります。
  3. 違和感の少ない仕上がり:神経があることで、治療後の感覚も自然です。

神経を抜く必要があるのはどんな時?

抜髄が必要な主な症状・所見

以下のような状態では、神経がすでに炎症や感染を起こしており、**抜髄(ばつずい)**という神経を抜く処置が必要になります。

  • 何もしていなくてもズキズキと痛む(自発痛)
  • 夜眠れないほどの強い痛み
  • 歯ぐきにウミの出口(瘻孔)がある
  • レントゲンやCTで根の周囲に黒い影(根尖病変)が見られる

これらはすでに歯髄が細菌感染しているサインであり、残しておくと悪化する恐れがあります。

神経を抜いた歯の変化と処置(根管治療)

神経を抜くと、歯は栄養供給を失い、細菌に対して抵抗力を失います。 そのままでは細菌が繁殖しやすいため、根管治療(歯の内部の清掃・封鎖)を行って感染を防ぎます。


神経を抜かざるを得ない原因とは

むし歯だけじゃない!5つの抜髄原因

抜髄が必要になる主な原因には、次のようなものがあります:

  1. むし歯(カリエス):進行したむし歯が神経に達すると炎症や感染が起こり、抜髄が必要になります。特に治療が遅れると痛みや腫れを引き起こすため、抜髄を避けることが難しくなります。
  2. 外傷(打撲・事故など):転倒や事故などで歯を強く打った際、神経が損傷して抜髄が必要になることがあります。
  3. 歯のひび割れ(クラック):歯にひびが入り、その亀裂が神経に達すると、強い痛みを生じます。ひび割れからの細菌感染を防ぐために神経を取る処置が必要になります。
  4. 重度の歯周病:進行した歯周病によって歯の根に感染が広がり、神経にも悪影響を及ぼすことがあります。
  5. 過度な歯科治療や修復物による刺激:詰め物や被せ物のやり直しを繰り返すと、神経に負担がかかり、炎症が起きて抜髄が必要になることがあります。

最も多い原因は「進行したむし歯」です。むし歯を早期に発見し、適切な処置を受けることで神経を守れる可能性が高まりますが、症状が進行すると抜髄が避けられない場合もあります。

進行による歯の状態の変化(図解)

下記の図は、むし歯の進行にともなう歯の内部の変化を示しています:

歯の神経の状態の違いを示した断面図。健康な歯、むし歯が神経に達した歯(根尖に黒い影あり)、根管治療を受けた歯の3段階を比較。神経の保存や抜髄、根管治療の必要性を視覚的に説明。

  1. 健康な歯:神経が生きており、刺激に反応できる状態
  2. 神経に達したむし歯:痛みや炎症が起きている段階
  3. 神経を除去した歯(抜髄後):根管治療によって清掃された状態

感染した神経を残すリスク

症状が悪化する前にすべき判断とは?

「できれば神経は残したい」と思う方は多いですが、感染した神経を無理に残すと、以下のようなリスクがあります:

  • 痛みや腫れが長引く
  • 歯の周囲の骨が溶けてしまう(骨吸収)
  • 骨吸収がすすみ、抜歯に至るケースも

そのため、感染が疑われる場合には、早期に神経を除去し、適切な治療を行うことが大切です。


まとめ:歯の神経を残すか、抜くかの判断基準

患者さんごとの最適な治療方針とは?

神経を残すか、抜くかの判断は、歯の状態や症状、画像所見をもとに慎重に行います。

当院では、CTやマイクロスコープなどの精密検査をもとに、できるだけ神経を残す治療を心がけつつ、無理のない範囲で最適な処置をご提案しています。

不安な方は精密検査での相談を

「神経を抜く」と言われて不安な方も、まずは一度ご相談ください。

👉 初診予約の流れを見る治療費の目安を見る

✅関連ページ

👉【以前詰めた歯が沁みる】深いむし歯でも神経を残すことができた歯髄保存の成功例

👉「歯の神経を抜く」とは?

👉 根管治療とは


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【以前詰めた歯がしみる】 深いむし歯でも神経を残すことができた歯髄保存の成功例

世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。

今回は、「しみる感じがある」という訴えから、むし歯が深く神経に非常に近接していた歯に対して歯髄保存処置(神経を残す治療)を行い、最終的に神経を取らずに済んだ成功症例をご紹介します。

当初は、神経が露出するほど深くむし歯が進行していましたが、適切な診断と断髄処置、そして経過観察を重ねることで、処置から1年後も神経は生きたまま機能しており、良好な結果が得られました。


初診時の状態:詰めた歯がしみる

患者さんは、当院で別の歯の治療を受けていた際に、「右上6番がしみる感じがある」とご相談されました。レントゲン撮影を行うと、右上6番の遠心部(奥側)にある古い詰め物(コンポジットレジン:CR)の下でむし歯が進行しており、神経(歯髄)に非常に近い位置に達していることが確認されました。

初診時の右上6番のレントゲン画像。過去のコンポジットレジンの下でむし歯が進行し、神経に接近している状態。 初診時の右上6番のレントゲン画像(図1)。むし歯が神経に非常に近接している歯を赤い矢印で示している。

▲ 初診時のレントゲン(右上6番)
過去のCR下でむし歯が進行し、神経にかなり接近している状態です。

この段階では右上6番に明らかな症状は見られませんでしたが、むし歯が深く、治療中に神経に近づく、または露髄する可能性が高いと判断されました。
また、処置後に症状が出てくる可能性があることもあわせてご説明し、患者さんには内容をご理解いただいたうえで治療を開始しました。


処置:露髄に対して断髄処置を選択

数週間後、麻酔を行ったうえで治療を開始。旧CRを除去し、むし歯を慎重に取り除いていくと、歯髄の一部が露出(露髄)しました。この時点でラバーダム(ゴムのシート)を使用して感染を防ぎながら、断髄処置(歯髄の一部を取り除いて残りを保存する方法)を実施しました。

MTAセメント(神経を保護・封鎖する薬剤)とBCライナー(神経を刺激から守る保護材)を使用し、神経を封鎖。その後CR充填にて修復を行いました。

露髄部に対してMTAセメントとBCライナーで封鎖した歯髄保存処置直後のレントゲン画像。

▲ 断髄処置後のレントゲン
露髄部を適切に処置し、MTAセメント+BCライナーで神経を保護しました。


処置後の経過観察:神経の生存と歯の状態

約3週間後

  • 「温かいものでしみる」「少し腫れていた」などの訴えあり
    → 安静時の痛みはなく、歯髄反応も正常だったため、経過良好と判断
    → CR再充填と咬合調整を行い、様子を見ました

約4か月後

  • 「食事の時に違和感がある」「冷風で一瞬しみる」
    → レントゲンで異常所見なし、軽度症状として経過観察継続

歯髄保存処置から約4か月後のレントゲン画像。歯根や根尖部に異常はなく、歯髄の状態も安定している。

▲ 処置から約4か月後のレントゲン
歯根や根尖部に異常は見られず、歯髄の状態も安定していました。

約6か月後

  • 「たまに噛んだときに違和感」「冷風痛が少しある」
    → 強い症状や悪化はなく、レントゲンも異常なし。引き続き慎重に経過観察。

歯髄保存処置から6か月後のレントゲン画像。症状は落ち着いており、歯髄が機能を保っていることが確認できる。

▲ 処置後6か月のレントゲン
経過は安定しており、歯髄が機能を保っていることが示唆されます。

約1年後

  • 「しみる感じはない」「噛んでも痛くない」との報告
    → 神経が生きたまま安定していることを確認し、処置成功と判断

歯髄保存処置から約1年後のレントゲン画像。根尖部に異常所見はなく、歯髄保存が良好に維持されていることがわかる。

▲ 処置から約1年後のレントゲン
根尖部にも異常所見はなく、歯髄保存が良好に維持されていることがわかります。


まとめ:早期発見・適切な処置・丁寧な経過観察で神経を守る

今回の症例では、以前に詰めたCR(コンポジットレジン)の下でむし歯が進行していたものの、露髄した神経に対して迅速に断髄処置を行い、歯髄を保存することができました。
処置直後はしみる・違和感などの軽度な症状がみられる時期もありましたが、慎重に経過を観察しながら対応を続けたことで、最終的には痛みもなく、神経を残したまま安定した状態を保てています。

歯髄保存処置の成功には、適切な診断と処置はもちろん、その後の丁寧な経過観察が不可欠です。
神経が生きている歯であっても、時間とともに状態が変化することもあるため、治療の有無にかかわらず、定期的なレントゲン検査を通じて状態を確認することがとても大切です。

当院では、精密な診査・診断に基づいた処置と、その後の経過管理を重視し、可能な限り歯の神経を残す治療を大切にしています。
むし歯や歯の違和感など、気になる症状がある場合は、お早めにご相談ください。

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✅関連記事・ページはこちら
👉 「歯の神経を抜く」とは?
👉 根管治療とは


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神経を取り除くことについて

よく患者さんから「虫歯が神経に達するギリギリのところでおさまっていた場合でも神経を取り除かないといけないのでしょうか?」と聞かれます。

 歯の中には神経や血管などが通っている『歯髄』と呼ばれる部分があります。よく深いむし歯の治療では、「神経をとる」などと言われますが、実際には「神経や血管の通っている『歯髄』をとる」ということになります。深いむし歯でも歯髄の状態が良ければ、歯髄を残して治療できる場合がありますし、歯髄の状態が悪い場合には歯髄を取り除く処置が必要になることもあります。

 しかし、ここで問題なのが現代でも、歯髄の状態を正確に診査する方法がない!ということです。今の科学の力でも処置前に歯髄の状態を正確に診査し、歯髄が残せるか残せないかを100%で診断することはできません。

 むし歯はどのくらいの大きさか、冷たいものがしみるか、どんな感じでしみるのか、温かいものではどうか、歯を叩いてみたときはどうか、歯肉の状態はどうか、お口の中を細かく見て、レントゲンなどを撮影し判断します。その際に、冷たいものを押し当てたり、逆に温かいものを押し当てたり、弱い電気を流したりして歯髄の状態を探ることもあります。

 そのようにしてある程度予測をたてて、むし歯を取っていきますが、治療を始めて歯髄に近くならないと、歯髄が残せるかどうか、分からないことも多くあります。また、処置時は歯髄を残せると判断しても、後の経過をみていくと、やはり歯髄を取らなければならないことも多くあります。

 このように歯髄を残す治療は「不確実性」があります。

 当院では処置前に、歯髄が残せそうか、残せなそうか、ある程度予測し患者さんと相談してから処置を開始します。また、歯髄を残そうとしても、やはり後日、歯髄を取る処置が必要になる可能性があることもお話しし、ご了解をいただいてから処置を開始致します。うまくいく!と気楽に始めると、うまくいかない時に困ってしまうので。

 このように神経を残す処置には不確実性が、ある程度、存在します。逆に神経を取る処置は非常に高い成功率が世界的にも報告されております。それでも歯の寿命を考えると、歯髄が残せたらよいな、と思います。判断に迷うようなケースもありますが、色々な診査を行い、科学的に考え歯髄の状態を予測し、処置方針を決めていけたらと思います。

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歯科保存学会報告

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さる6月25日、26日に
北九州市の小倉で
日本歯科保存学会が開催されました。

世田谷の医院を休診にして
参加させていただきました。
根管治療や歯内療法の新しいトピックはあるかなぁ。
DSC_0118
大学院時代から、博多へは何度か行ったことはあったのですが、小倉は初めてでした。
保存学会は地方に行くことも多く、小さな都市に行くこともあったのですが、
小倉は思ったよりも大きな都市でしたね。
飲食店も多く、ラーメンも海の幸も
とてもおいしかったです。

 

肝心の学会内容で一番気になったのは
『う蝕治療ガイドライン』が改定されたことですね。
DSC_0126
第一版も購入しましたが、購入後すぐにPDFにて無料配布された
苦い思い出がありました。
でも、PDF配布の前にやっぱり第二版も買っちゃいました。
う蝕治療(いわゆるむし歯治療)は歯科治療の重要なパートですし、
坂上デンタルオフィスにおいても、非常に重要な治療ですから、
早く情報を得ないといけませんしね。
日本語になっている時点で、もはや最新ではないのですが、
ある意味、日本のう蝕治療の方向性を決める資料と思っています。
根面う蝕への非切削および切削での対応は参考にさせていただきます。

 

講演でも気になったものがありましたが、
そのお話は次回のブログにします。

しかし、一人で診療していると世界が狭くなりがちなので、
たまに学会に参加すると知識としても、
気分転換的なものとしてもよいですね。
また、秋に参加させていただきます。

坂上デンタルオフィス
坂上 斉

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