こんにちは。
世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている、坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
以前に腫れや痛みがあった歯でも、症状が落ち着いたからといって、完全に治ったとは限りません。
今回は、来院時には痛みも腫れも見られなかったものの、CT検査によって根の形が複雑な「樋状根(といじょうこん)」と、下顎管に近接する黒い影(骨が溶けている部分)が確認された症例をご紹介します。
慎重な診断と治療によって、症状が再発する前に適切な処置を行うことができました。
初診時の状態:治療途中のままの歯
過去にあった腫れと痛み
患者様は2〜3年前に左下の奥歯(第二大臼歯)の根管治療を受けたものの、仮のフタをしたまま治療が中断されている状態でした。昨年末には歯ぐきに瘻孔(ウミの出口)ができたものの、来院時点では腫れや痛みといった症状は落ち着いていました。以前通われていた歯科医院では「治療が難しい」と説明され、専門的な治療を希望されて当院へ来院されました。
CTで判明した樋状根と下顎管近接
レントゲンでは、治療途中の仮のフタのまま数年経過してしまっているのもあり、炎症により根の先に大きな黒い影(骨がない部分)が認められました。
▲初診時のレントゲン(左下7番)
さらにCT撮影を行ったことで、根の形が複雑な「樋状根(といじょうこん)」であること、そして黒い影が下顎管に近接していることが確認されました。
▲初診時のCT画像
「樋状根(といじょうこん)」とは
「樋状根」は、雨樋に由来し、根管が癒合してC字型になっている根管形態のことです。英語では”C-shaped root canal”とも呼ばれ、根管の内部が扁平であるために、感染源の除去や根管内の清掃が非常に難しく、治療には高度な技術と設備が求められます。下顎の第二大臼歯、アジア人に多く見られる根の形態です。なかでも男性よりも女性に多く出現することがわかっています。
治療方針とリスク説明
黒い影が下顎管に近接していることから、治療中に神経を刺激しないように最大限の注意が必要です。また、穿孔(根管に穴があいている状態)が生じている可能性も考慮しなければなりません。
特に近心部では歯頚部の歯質が少なく、長期的に安定して残すことができるかどうかは不確定です。根管治療後も改善が見られない場合には、外科的な処置(意図的再植術)が必要になる可能性があり、もし歯根破折が確認された場合には抜歯となることもある旨を、患者様に丁寧にご説明しました。
治療経過:複雑な根管に配慮した精密根管治療
1回目:感染源の除去と根管洗浄
初回の治療では、以前の仮のフタと内部に残っていたむし歯を除去し、歯質の薄い部分にはレジンを用いて隔壁を形成しました。マイクロスコープ下で感染源の除去と根管内の洗浄・消毒を丁寧に行い、治療後は仮封をして経過を見ました。
▲隔壁形成後の状態
2回目:根管充填
腫れや痛みが再発していないことを確認したうえで、すべての根の先まで再度洗浄し、隙間のないように根管充填を行いました。
▲根管充填後のレントゲン像
3回目:土台と仮歯の装着
症状の安定を確認後、補綴処置へ進むための土台(コア)を築造し、仮歯を装着しました。咬合圧がかかりすぎないよう調整しながら、日常生活でも使える状態を整えました。
▲仮歯装着後の状態
治療後の経過:CTで確認できた黒い影の縮小
半年後のレントゲンとCT所見
根管充填から半年後、経過観察のため再度レントゲンとCT撮影を行いました。レントゲン上では変化が分かりにくかったものの、CTでは黒い影が明らかに縮小しており、骨の回復傾向が確認できました。
▲治療前後のレントゲン比較
▲治療前後のCT比較 – 黒い影の縮小
口腔内写真で見る歯の変化
治療後、歯ぐきの状態も安定している様子が確認できました。歯ぐきの上に見える歯質が少なかったものの、なんとか保存できた症例です。
治療期間中は、写真のように白い仮のフタで強くかみ合わないように調整しています。
治療終了後から半年の経過を診る際は、仮の歯を入れ、ある程度噛めるようにし、普段の食事などで問題なく使っていただけるようにしています。
▲治療前後の口腔内写真比較
まとめ:痛みがなくても検査・治療が必要な理由とは
今回のように、過去に腫れや痛みがあった歯でも、来院時に症状が落ち着いているからといって安心はできません。精密な診査・診断を行うことで、CT上に「下顎管に近接した黒い影」や「樋状根(といじょうこん)」といったリスク要因が見つかることがあります。特に、根の形が複雑な樋状根や神経に近い位置に病変があるケースでは、慎重かつ的確な判断が求められます。
症状が出ていないうちに適切な処置を行うことで、再発や抜歯のリスクを避けることが可能です。
違和感がない場合でも、レントゲンやCTによる検査を通じて、目に見えない異常を早期に見つけることが歯を守る第一歩となります。
少しでも不安なことがあれば、お早めにご相談ください。
当院ではCT診断やマイクロスコープを活用した精密な根管治療を、すべて自由診療にて行っています。
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日付: 2025年2月12日 カテゴリ:未分類, 根管治療, 症例, 院長ブログ and tagged CT診断, マイクロスコープ, ラバーダム, 下顎管, 世田谷区, 二子玉川, 再根管治療, 坂上デンタルオフィス, 根管治療, 樋状根, 治療途中の歯, 症状がない歯, 精密根管治療, 自由診療, 黒い影