世田谷区・二子玉川で根管治療を専門に行っている坂上デンタルオフィスの坂上斉です。
「歯と鼻は関係ない」と思われている方も多いのではないでしょうか。
実は、奥歯の炎症が原因で、鼻の調子が悪くなることがあります。
今回の患者様も耳鼻科での検査をきっかけに、奥歯に原因があることが分かり、当院にご紹介いただきました。
強い痛みはありませんでしたが、詳しく調べてみると歯の根の先に炎症が見つかり、根管治療が必要な状態でした。
ここでは、耳鼻科からの紹介でわかった「歯と鼻の意外なつながり」と、その治療についてご紹介します。
初診時の状態
経緯・主訴
患者様は、耳鼻科での検査をきっかけに当院へ紹介されました。
約3か月前に38度の発熱があり、その際にCT・MRI検査を受けた後、耳鼻科を受診。精査の結果、歯の関与が疑われ、当院へご紹介いただきました。現在は鼻の症状は落ち着いています。
強い痛みはありませんでしたが、「硬いものを噛むと違和感がある」とのことでご来院されました。
所見
●口腔内診査
自発痛、打診痛、圧痛、腫脹はいずれも認められませんでした。
歯周ポケットは3mmと深くはなく、歯ぐきや周囲組織にも異常はみられませんでした。
歯にはジルコニアインレーが装着されており、過去に治療歴がある歯でした。
●レントゲン・CT画像所見
レントゲンおよびCT画像では、左上7番の根尖部に黒い影(骨のない部分)を認め、炎症が上顎洞(鼻と繋がっている空洞)にまで及んでいる所見が確認されました。
また、根管は強く湾曲しており、治療の難易度が高い症例でした。
根管が大きく曲がっている場合、器具を根の先まで安全に通すことが難しく、
わずかな操作ミスで器具が折れてしまったり、根の壁を傷つけて穿孔(せんこう:穴が開いてしまう)するリスクがあります。
そのため、マイクロスコープを用いて内部を拡大しながら、少しずつ慎重に治療を進める必要があります。
このように、歯の根の先に炎症が生じている状態は、医学的には**「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」**と呼ばれます。
さらに、炎症が上顎洞へ波及していたことから、**歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)**を併発していた可能性も考えられました。
患者様には、まずは根管治療によって感染源を取り除き、炎症の改善をめざすこと、
十分な改善が得られない場合には意図的再植術(歯を一度抜いて根の先を処置した後に戻す方法)を検討すること、また治療の過程で歯根破折が確認された場合には抜歯が必要となる可能性があることを説明し、ご理解のうえで治療を開始しました。
神経が失活した原因として考えられること
この歯はこれまで神経の処置(根管治療)が行われていなかった歯です。
過去に詰め物による修復治療は受けていましたが、その時は神経は残されたままでした。
そのため、今回見られた根の先の炎症は、歯の内部で神経が時間をかけて失活(死んでしまった)ことが原因と考えられます。
痛みがないまま歯の神経が失活してしまう背景として、次のような可能性が考えられます。
- 神経の近くまで削られたことにより、神経が徐々に弱っていった
深い修復処置により神経が刺激を受け、時間をかけて少しずつダメージが蓄積し、最終的に神経の働きが失われてしまうことがあります。 - 詰め物の下にむし歯や感染源が残っていた
治療時に細菌がわずかに残っていた場合、歯の内部で感染が進行し、時間をかけて神経が死んでしまうことがあります。
いずれの場合も、治療直後には症状が出にくく、数年を経てから根の先に炎症が見つかることがあります。
歯性上顎洞炎とは
上の奥歯の根の炎症が鼻の奥にある空洞(上顎洞)に波及してしまう状態をいいます。
もともと上の奥歯の根は上顎洞と非常に近いため、歯の根の先にできた炎症が鼻の空間に広がることがあります。
歯が原因で起こる上顎洞炎では、次のような症状が見られることがあります。
- 片側だけ鼻づまりや鼻水が続く
- 鼻の奥や頬のあたりに重い痛みや圧迫感がある
- 鼻をかむと歯の根元あたりに痛みを感じる
- 特定の歯(特に奥歯)を押すと違和感がある
- 耳鼻科で「原因が歯にあるかもしれない」と指摘された
こうした症状は、一般的な鼻炎や風邪と似ているため見過ごされがちですが、歯が原因となっているケースも少なくありません。
歯科と耳鼻科の両方の診察が必要になることもあり、原因を見極めるためにCT検査が有効です。
治療の経過
治療1回目
- 麻酔を行い、ラバーダム(ゴム製のシート)を装着しました。
- 可能な限り健康な歯質を残すため、マイクロスコープで確認しながらZr(ジルコニア)インレーを除去し、むし歯も丁寧に取り除きました。
- 隔壁(唾液が入り込まないようにし、歯の補強も兼ねた人工的な壁)を作製しました。
- 根管治療を実施。根管は強く湾曲し、先端部が細くなっていたため、無理に穿通は行わず、可能な範囲まで清掃・洗浄を行い、感染源の除去を徹底しました。
- 根管内に薬剤(根管治療中に根の中に一時的に入れる薬)を入れ、仮封を行いました。
治療2回目
- 症状は違和感がある程度でした。
- 麻酔を行い、ラバーダムを装着しました。
- 根管治療を継続。根管は湾曲して細くなっており、根尖付近まで処置を行い、洗浄を徹底して行いました。
- 根管充填を行い、仮封しました。
レントゲン撮影で、根管充填の状態が良好であることを確認しました。
治療3回目
- 麻酔を行い、ラバーダムを装着しました。
- ポスト(支柱)およびコア(土台)を築造しました。
- 歯質の残りが十分にあったため、噛める状態まで歯冠を回復しました。
根尖部の炎症が安定していることを確認し、経過を観察する方針としました。
経過観察
根管充填後は、画像と症状の両面から経過を確認していきました。
根管充填後から8カ月
- 痛みはなく、鼻の症状も認められませんでした。
- レントゲンおよびCT撮影を行い、根尖部の黒い影が縮小し、骨の回復傾向が確認されました。
- 炎症の改善が見られたため、最終補綴(被せ物の作製)へ移行する予定としました。
まとめ
今回の症例では、強く湾曲した根管と、上顎洞にまで及んだ炎症という難しい状況でしたが、
丁寧な根管治療によって炎症が改善し、歯を残すことができました。
上の奥歯は、鼻の奥にある空洞(上顎洞)と非常に近い位置にあるため、
歯の根の先に炎症が生じると、鼻や頬のあたりに症状が出ることがあります。
そのため、鼻の不調が長引く場合や、耳鼻科で原因がはっきりしないときには、
歯のトラブルが隠れていないか歯科で確認することも大切です。
根管が大きく曲がっていたり、根の先が細くなっている場合でも、
マイクロスコープによる精密な根管治療で歯を残せる可能性があります。
当院では、できる限り「抜かずに治す」ことを目指し、
それぞれの歯の状態に合わせた丁寧な治療を行っています。
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当院ではCT診断やマイクロスコープを活用した精密な根管治療を、すべて自由診療にて行っています。
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日付: 2025年12月2日 カテゴリ:根管治療, 症例, 院長ブログ and tagged CT診断, マイクロスコープ, 根管治療, 歯と鼻の関係, 歯性上顎洞炎, 湾曲根管




















